訪れた僕の手を強く握り返し

「あんたはええことしよる。」

そう言った。

 

看病を続ける母と、その場に居合わせた介護士たちは一様に驚いた

 

もう身体が栄養を受け付けないのか?水分だけを点滴しているのだ

脱水状態にならないようにね

それに、この数年で痴呆症がかなり進行していた

昨年、生誕100周年を祝いに訪れたときは

僕が父に見えるのか「あなたのお父さんは…」と、つまり祖父の話をするので

祖父を知らない僕は話を合わせるのに苦労したほどだった

 

握り返す手の力

何処から、その力が湧くのか?

みんな驚いていた

 

「お葬式は来なくていいのよ。その時は本人はもう居ないのだから。ちゃんと地上(ここ)に居る間に会いに来なさい。」

そんな電話が母からあり高松まで

「本質」への最短距離

そんな母の合理的な考え方は好きだ

それに僕は葬式が大嫌いだから

 

祖母と交わした約束は二つある

一つは、

「正直に生きなさい。」

 

高松は戦争で焼き野原になった町の一つ

戦争が終わり、町を復興させていく中で

誰もが良い土地を自分の地所だと主張した

その良い場所というのが、祖母の家があったところだった

争いごとを好まない彼女は何も言わなかったそうだ

最終的に残った土地を自分の場所とし生活をやり直すつもりだったのだろう

戦後の区画整理が始まり「三越」の建設予定地に、誰も欲しがらなかった祖母の土地が入っており

三越がそこを買い上げることになる

それで手にしたお金を元手に美容院の経営と結婚式場での着付けの仕事を始めたのです。

 

『「正直に生きなさい。」と言うのであれば、

「何故、おばあちゃんは自分の土地を自分の土地だと主張しなかったの?」』

そう言いかけた僕もそのときはまだ若かったのだ 笑

祖母自身の正直さの話ではなく、正直でなかったが為に、この幸運を逃した人の話なのだと悟り、その言葉を呑み込んだのでした。

言わないで良かった

言っていたら今も後悔しているだろう

なんという人だ!

貴方ほどではなくとも正直に生きる努力をしますと、その時に誓いました。

 

もう一つは、

いとこに「知的障害者」が居ます

理解り易いように知的障害者と言っておきます、とりあえずは

 

とても無垢な人です

色に例えるのなら

全てを跳ね返す「白」

または、全てを吸収する「黒」

或いは色を超越した「透明」なのかもしれない

 

母方の竹村家で一番若いのが僕です

姪と甥が居るので正確ではありませんが

今からする話に於いては、正しい表現です

 

一番若いのですから、彼女の面倒を最終的にみるのは、僕の役割となる

とても合理的な話で、二つ返事で約束しました

その必要があるときが来れば、高松に行くことになります

大好きな神戸を離れることなど考えもしなかったのですが

年齢を重ねると共に避けられない問題は出てくるものだ

新しく学ばなければならないこともあるでしょうが

僕はそれを楽しむ覚悟があることを母に伝えておくことも、今回の小さな旅の目的でした

 

以前に「知的障害」という言葉は嫌いだと書いた理由は身内に居るからです

それと「知的障害者」と「健常者」という言葉があべこべに使われているのではないか?という個人的な見解から

 

彼女たちは、やりたいことをやりたいときにやりますし、それには何の評価も見返りも必要としません

 

自分の言動を正当化するため

周囲と同調するため

いろいろな「ため」のためにいろいろな策略を常に考える僕たちの方が、脳内に沢山の障害を持っているのです

 

彼女たちが健常者で、僕たちが「知的に障害のある者」です。

 

 

というわけで、僕には宝物のような「約束」が二つあるのです。

 

 

「人間90までなかなか生きれんよ。私は100まで生きた。」

「まぁ、あんたもがんばんなさい。」

 

励ますつもりでやって来たのに、逆に励まされるというオチもついた

 

 

リタイア後は老人ホームに通い、ボランティアで髪の毛の手入れを皆さんに提供していました

自分の方が老人なのに!笑

で今、自分が病院ではなく老人ホームのお世話になっていて

スタッフの皆さんが本当によくしてくれているようだ

そんな因果も見せてくれる

「女の人はいくつになっても綺麗にしてあげると喜ぶんよ。」って言ってたな

それに趣味で始めた押し花を照れ臭そうに僕に見せてくれる、そんなキュートなおばあちゃんでもあった。

 

 

いろいろありがとう

 

 

別れ際に僕を指差して何か呟いたのですが、聞き取れなかった

何と言ったのだろうか?

 

 

今は考えないでいよう

 

 

 

 

 

 

 

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